WYLCに20年以上在籍し、数々の家具を手掛けているベテラン職人・草苅智則。未経験の頃に出会ったWYLCの家具に魅了され、他の工房で修業を積んだのち、2002年に入社。以来、ブランドへの強い愛情を胸に「ゼブラチェア」をはじめ数々の家具を形にしてきた。椅子制作のチーフとなった現在は、持ち前の温かさで現場の雰囲気を明るく盛り上げ、若手の育成にも励む。

顧客向けのワークショップやイベントも積極的に開催し、ものづくりの楽しさや、長く大切に使い続けることをつかい手へと伝えることも大切にしている。手仕事や家具を心から愛し、まさに「愛着がめぐる暮らし」を自然体で体現している草苅の周りには、いつも自然と笑顔が溢れている。

ものづくりの確かな腕と、使う人の気持ちに寄り添う柔らかい眼差し。そんな草苅が今回、リノベーションブランド〈TORINO〉とコラボレーションし、代々木八幡のマンションリノベーションのプロデュースを手掛けた。彼が掲げたテーマは、「時間を育てる住まい」。

「人は自分の手を掛けたものにこそ深い愛着を感じますし、その愛着が日々の暮らしを豊かにしてくれると思うんです。完成した瞬間が一番ではなく、経年変化が愛おしく感じられ、住む人と共に何十年と時間を育てていけるような住まいを目指しました」(草苅)

この草苅の想いに共鳴した作り手たちとの「Co-Craft(共創)」によって、この住まいは形づくられていった。草苅が描いた間取りや造作の構想を、TORINOが詳細設計や施工の面でサポートした。

リビングには、アーチに包みこまれるような造作ヌックベンチを配置。ベンチのクッションや椅子の張り地、寝室のカーテンを彩るファブリックには、服飾ブランド「MITTAN」の布地を採用。きっかけは、草苅がセレクトショップでMITTANの服に出会ったことだった。修繕や染め直しを重ねながら服を長く着続けるというMITTANのモノとの向き合い方にWYLCと共通する思想を感じた草苅は、ショップの店主を介してデザイナーの三谷武氏へアプローチ。こうして、異業種でありながら同じ価値観を持つコラボレーションが実現した。

床やキッチンカウンターには、富山県「尾山製材」から取り寄せた、自然が生み出すスポルテッド(黒い筋状の杢目)や耳付きの木材を採用。機械的な均一さではない無垢ならではの力強い表情をそのまま引き出している。リビングの扉には、アンティークドア専門店「レアント(reant)」で選んだ1940年代のイギリス製ドアを誂え、時を重ねたものだけが持つ深い味わいを添えた。

キッチンは、収納棚や食洗機の面材まですべてを無垢材で揃えることで、家具のように空間に溶け込むような見た目に仕上げた。キッチン奥には、ビスを使わない「蟻送り(ありおくり)」という技法を用いた造作棚も配備した。無垢材の伸縮や反りなども考慮した設計になっており、職人だからこそできる緻密な計算と手仕事が息づいている。

プライベートでは観葉植物を育てるのが趣味だという草苅ならではの暮らしへの配慮も。光が差し込む窓際の床にはあえて防水タイルを敷き、水漏れを気にせず植物の手入れができるように工夫。さらにベランダには室内と同じ無垢のウッドデッキを敷き詰め、植栽を飾ったり、テラス席で寛いだりできるように開放感を演出している。

手を掛け、愛着を込めて使い込む日々が、住まい手にとって世界にひとつだけの価値へと変わっていく。職人・草苅智則のブランドへの溢れる愛と「Co-Craft」の思想が交差するこの空間は、住まう家族の人生とともに、これから先も豊かな時間を育み続けていく。