CO-CRAFT COLLECTIONとして2026年に発表された、鈴木元デザインのMIOシリーズ。豊かな地下水が流れる昭島の風景を思い描き、水脈を意味する言葉「澪(みお)」から名付けられたこの家具は、空間に調和する穏やかな佇まいと、無垢の木が持つ根源的な魅力を引き出している。

「元さんが最初に私たちの工場へ来られたとき、『無垢の木というだけで、人は思わず触れたくなる。その行為自体がとても贅沢なこと。座りながら思わず撫でてしまうような椅子にしたい』とお話しされていたのが印象的でした」

そう振り返るのは、WOOD YOU LIKE COMPANYの職人であり、MIO CHAIRの開発から制作までを一手に担う岩下光為だ。

MIO CHAIRの最大の特徴は、その「触り心地」にある。アームへと流れる削り出された曲線は、単なる楕円や真円ではない。三角形から楕円、そして真円へと、連続して可変していく極めて複雑な三次曲面で構成されている。この絶妙な曲線により、座ったときに自然と手を添え、無意識のうちにその柔らかな木肌を撫でてしまうのだと言う。

この「思わず撫でてしまう時間」こそが、暮らしの中に豊かで優しい余白を生み出してくれる。仕事の合間や食後のひとときに、ただ木に触れているだけで心が自然とほどけていくような、無垢材ならではの特別な癒やしがここにある。

「四角い木材から切り出し、正面から見たときに一番高く見える頂点のラインを見失わないよう、カンナとグラインダーを駆使して削り進めていきます。機械任せにはできず、自分の手で木肌に触れて形を確かめながらプロトタイプを重ねました」(岩下)

鈴木が目指したのは、奇をてらった形ではなく、日本の住環境に馴染む「東京クラシック」。過剰なボリュームを持たせず、ぱっと目に入ったときに空間に溶け込む“静かなデザイン”がポリシーだ。

その静けさを実現するため、岩下はディテールにおいて0.1mm単位の緻密な調整を行っている。たとえば、座板の側面と脚の傾きを合わせることで視覚的なノイズを消し、後ろ脚にはさりげない反りを持たせた。座面の彫り込みも、心地よい座り心地を担保しながら、あえて彫られていることに気づかないほどの柔らかい表現に留めている。

この「主張しすぎない美しさ」があるからこそ、どんなテイストのインテリアにもすんなりと調和し、お部屋をすっきりと広く見せてくれる。毎日見ても、何年、何十年と使い続けても決して飽きることがない、普遍的な安心感も大きな魅力だ。

職人の技術と知恵は、その構造自体にも存分に詰め込まれている。初期のデザイン案にあった座面下の「貫(ぬき・脚同士を繋ぐ補強材)」を、緻密な計算と加工技術によってなくし、座板自体を構造体とすることで、アームチェアとしては異例の軽さと部品数の少なさを実現した。

この軽さは、毎日の家事や暮らしにおいて、何より嬉しい実用的なメリットとなる。掃除のときに片手で引くことができ、持ち運ぶ際にも驚くほどの軽やかさを実感できる。

「最大の強度を出すために脚と座板の接地面を広げるなど、見えない部分の構造には徹底的にこだわりました。また、強度を高めるための『割楔(わりくさび)』は、そのまま見せると工芸品的な土着感が出すぎてしまうため、あえて同じ木で蓋をして隠しています。洗練されたモダンな印象を崩さないための工夫です」(岩下)

同時に展開されるテーブルにおいても、天板の端の20分の1ミリの傾斜や、脚の先端20cmからわずか3mmだけ絞り込むという、気づかないレベルの微細な調整が施されている。この細かな配慮により、食事や作業の際、手を置いたときに違和感なく安定した姿勢を取ることができる。

デザインの静けさと、手仕事の熱量。相反するようなふたつの要素が高度な次元で融合することで、MIOは「暮らしの風景」として完成する。職人とデザイナーの静かなる共鳴が、この一脚に宿っている。